「このキーボードという楽器には700通りの音色と200種類のリズムが詰まっています。自分専用のバックミュージックに組み合わせて、自由自在に一人演
奏を楽しむことができます。演奏者の心意気と技量に
あわせてその豊かな音楽性を引き出してくれるところが魅力なのです。」
御厨章(みくりやあきら)さんは、演奏会の代表あいさつでいつもこう切り出します。
ほとんど未経験の人たちに声をかけて、さいたま市内でキーボードサークルを立ち上げたのが10年前。
市内の公民館で、空き時間を借りての始まりでした。少し得意曲が増えたころから、高齢者施設、医療
施設を訪問、時には町内会の祭りひろばで懐かしのメロディーを披露して喜ばれています。
市内には同様のサークルがいくつかあります。交流するうち合同発表会の話が持ちあがりました。御厨さん、持ち前
のリーダーシップを発揮して「ならば、企画から会場設営、案内や運営に至る全てを自前で、手作りの発
表会にする」ことを提案します。つまり、発表者は自分の発表曲の仕上げ時間に加え、運営に係るボラン
ティア活動にも加わることを条件にしたのです。 発表会が3回、4回目と重なるたびに、会の趣旨に賛同
する市民の申し出が相次ぐようになり、昨年末の発表会は司会者、ユニフォーム衣装と舞台づくりのコー
ディネーター、カメラマンにビデオ編集員さらに友情出演につづいて、客員演奏が加わる一大イベントにふくれあがっていました。
驚くのは、年一回はキーボード全国コンクールに団体出場し、アンサンブルの部、個人の部で共に上位
入賞を果たすなど、実力者が次々誕生していることです。ここにいたり、請われて大宮器楽協会15団体
の代表をも務めることになったのも必然性があります。
こうした音楽関係の市民活動に忙しく立ち回る昨今だが、実は御厨さん、中堅営業マンの中心にいた
52歳、会議中に突然倒れました。かなり重度の脳梗塞でした。 しかし懸命にリハビリに取り組み、その
一部始終がNHK特集番組で全国に紹介された、張本人でもあります。見事社会復帰に成功して販売部
門から総合研究所に移り、2002年、定年退職後は埼玉交遊会に所属しています。
埼玉交遊会・桜樹会の懇親会には欠かせない「五霞慕情」、あちこちの高齢者施設で大合唱を呼ぶ
「北国の春」など、おじさんバンドはレパートリーを駆使して楽しませてくれています。
製油所時代の吹奏楽、スイングバンドの友も多く、根っからの音楽好きが、シニア世代の自分の人生
道を切り拓いていくのは自然の成り行きか・・1年後輩の筆者はこの生き方に感嘆するばかり。
70名からの出演者のトリで登場する御厨章さん、自らアレンジした渾身の一曲をご本人の許諾を得ましたのでDVDにて投稿させていただきます。